奇怪少女のいる風景

一昨日、風邪をひいて会社を休み、熱で朦朧としつつもコンビニに餌を確保にいった。
雑誌棚の前で背の高い女の子が立ち読みしていた。学校帰りの女子高生だろうか。別に立ち読みなど気を惹くような風景でもないのだが、なぜか感じた違和感に視線がそちらへ向いてしまう。
隣でジャンプを手にとって読もうと思った瞬間に、ふっと横を向いて気づいた。
……なんでヤングマガジンなんか立ち読みしてるんだ?
別に女の子が読んだらいかんとは言わないが、一体何読んでるんだろうか。
気になって手元を軽く覗いてみると、頭文字D
ナヌ?と思って目を上げた瞬間、その子と目があった。
「ニヤソ」
擬音が聞こえるぐらいの妖しい笑みを浮かべると、雑誌を閉じてこちらに一瞥くれる。
まだ若い顔立ちに、自信に満ちた不遜な表情。
皮肉げに口元をゆがめ、挑むというより見下すような視線を揺らぎもせずに投げつける。
心臓が二三度、脈のリズムを狂わせる。
俺が呆然と見つめる中、その子はふっと背を向けると、何事もなかったかのように店から出ていった。
……正直、熱のせいで幻覚を見たのかと思った。


今日、同じコンビニに同じような時間に行った。
正直、あの奇妙な女子高生にまた出くわすのではないか、という期待はあった。
言ってみれば怖いモノ見たさかもしれない。
車を降りて店内を見ると、……いた。
また、平綴じの雑誌を、やけに姿勢のいい立ち姿で読んでいる。
少々ビクビクしながら、それでいて、ナニビクついてんねんと自分にツッコミを入れながら、後ろを通ってマガジンを手に取る。
……すれ違ったとき、目に入った絵は、全日本妹選手権だったよな、あれ。
思わず横を向いてそのこの顔を見るのと、少女がこちらを向くのが同時だった。
またもや視線が合う。
向こうは視線を逸らさない。こちらは視線をそらせない。
心臓が無意味ででたらめな鼓動を打ち、ナニがなんだか分からなくなりかけたとき、彼女が口を開いた。
「オジさんも読む?」
そう言って、彼女は手元のアッパーズを差し出す。
「あ、う、……え?」
よく分からず受け取る俺。
「オジさんは大人なんだから、もちろん買って行くんだろうね?」
「あ、ああ。」
混乱したまま頷く俺に、少女はまたあの微笑みとは言い難い嗤いを投げかけて、店を出て行った。

動転したままどうやって帰り着いたのか。
家についてやっと落ち着いた俺が持っていたのは、コンビニの袋に入った、アッパーズとフレッシュパックのさきいかだった。
熱もないのに、また幻覚でも見たようだ。