九龍夢幻譚

山羊宮ハルヒさん(id:Yagimiya)のKowloon Unlimited Online (http://www.geocities.jp/goathead_arch/novel_kowloon.html)を読んだので感想など。

ノリとツッコミ、剣戟と魔法、信頼と策謀、そして……
仮想と現実の間で、少年は何を見るのか。
エセネットゲー小説ー。

と言う説明が、かなり過不足のない作品。
中華風ファンタジー世界を舞台にしたVRMMO「Kowloon Unlimited Online」に、主人公アキトがログインするところから始まるストーリーは、ハイテンションの掛け合いとハイスピードの展開で、息もつかせぬ疾走を見せて怒濤のクライマックスへ雪崩れ込みます。全60話+あとがきがあっという間に駆け抜けてゆく。有る意味走馬燈のような作品です。(褒め言葉ですよ?)
作品としての見所はいくつかありますが、何はなくともまずは主人公の親友『夏記』の台詞回しでしょう。この御仁、常にハイボルテージかつ韻や出典を踏まえた発言をしており、有る意味一人でこの作品の雰囲気を支配しています。キャラが実に濃い。
また、畳みかけるように趨る地の文も魅力の一端を担っています。戦闘シーンのスピード感は見事。
このジャン*1の作品としては、代表的なものとして Sword Art Onlinehttp://wordgear.x0.com/novel/ver6sao1.htm) や Deadly Labyrinth(http://bookshelf.jpn.org/novel/ahdl/index.html)、あるいはリンダリング(http://robin.daa.jp/rr/novels/rindaring/index.html)なんかがあると思うのですが、このKUOも押さえておくべき作品の一つだと思います。
なお、Sword Art OnlineSword Art Online 2 (さらにはその付帯する作品群)の設定を一部使われているので、そちらも目を通しておいた方が楽しめます。読んでなくてもそれほど困らないとは思いますが。


(以下、ネタバレと若干の批評的内容を含みます。)
と、良いところは概ねバリッと書きましたので、その他感じたところもちょこっと。

まず感じたのは、全体的にスピード感がありすぎて、読者に休む間も与えていない印象があること。もしかしたら作者さんも息しないで書いてるんじゃないかって思うほど。『息もつかせぬ』という言葉があるけれど、実際にそれを長編小説でやっちゃうと、ちょっと疲れるというかメリハリがなくなるというか。序破急とか起承転結を際だたせるためにも緩急はもっとはっきりしてた方がいいように思いました。*2

あと、キャラクターの造形もちょっと気になりました。
夏記や春音、或いは獣人四人衆みたいなはっちゃけたキャラや、黒雨のようなSAN値が随分減っちゃったキャラクターはかなりキャラが立っているのですが、その分主人公や冬花、或いは青代のような真面目系キャラが随分割を食っているような印象があります。
キャラクタ造形や役割的にはあんまり問題ないと思うんですが、不真面目キャラの濃さに対して、そうでないキャラは味付けで負けてるような気がします。

また、ストーリーや構成については、特筆すべき点もない代わりに破綻もないものです。ご都合主義が幾分強いかもしれませんが、もともとSFやファンタジーでリアルさをとことんを追求する必要性があるわけでもないので問題ないかと思います。『会話の掛け合い』や『ストーリーの疾走感』を追求する作品だと考えると、むしろ、変に穿ったリアルさや込み入ったストーリーは、読者の没入感を阻害する要因になりかねません。そういった視点で見ると、『奇抜ではないけれど息もつかせぬストーリー展開』という構成を成立させているのは凄いことです。
まあ、この辺はストーリーや文章の完成度が高いからこそ出てくる不満点と思っていただけるとよろしいかと思います。


当初、良いところだけの感想を書こうかと思ったのですが、それをやっても提灯記事みたいでどうかなと思ったので、感じたことは洗いざらい書いてみました。
私自身、書き手でもあり読み手でもあると自負していますが、評論者としては甚だ当てにならないことを自覚しておりますので、その辺さっ引いてお考え下さい。

*1:仮想現実世界を舞台にしたMMORPGの小説

*2:そこ、起承転結の『起』緩急の『緩』ばっかり書いている人間が言っても説得力皆無だとか突っ込まない。