電子生命は自由意志の夢を見るか

id:hoshikuzuさんが面白いことを書かれていたので、ちょっと触れてみます。
とりあえず此方がネタもと。
http://d.hatena.ne.jp/hoshikuzu/20040517#20040517jiyuuishi


さて。
まず触れておきたい点。
チェスの世界チャンピオン・カスパロフと対戦したコンピュータは、IBMの超並列マシン「ディープ・ブルー」です。IBMのあだ名「ビッグ・ブルー」から来たネーミングであることは一目瞭然ですね、はい。
この「ディープ・ブルー」とカスパロフ氏の1997年の対戦については、日本IBMのサイトに記事があります。
http://www-6.ibm.com/jp/servers/eserver/pseries/solutions/hpc/news/dbuser.html
こちらを見るとわかることですが、ディープ・ブルーはその場のひらめきなどによって新しい手を作り出すことはありません。

  • 過去の膨大な棋譜から類似する手を検索
  • リストアップされた次の手をその後の展開を推論して重み付け
  • 次の手を選択して打つ

これを繰り返しているに過ぎません。
このチェス対決を単純な「コンピュータvs人間」の能力勝負だと考えるのは間違いだと思います。このイベントで試みられたアプローチは、

  1. 膨大なデータの検索をどれだけ高速化できるか。
  2. データの検索とそれに基づいた推論アルゴリズムを、いかに現実的なものに最適化できるか。

といったコンピュータ技術がいかに現実的な問題解決に寄与できるかを探るものであり、更に言えば、パラレルコンピューティング(並列計算処理)がいかに高速であるかをアピールするためのものだったと思います。

これは、1990年代のHPC業界*1の動きが背景にあります。1980年代世界を席巻したクレイ社のベクトル型スーパーコンピュータは、NEC富士通といった日本企業のベクトル型スーパーコンピュータに性能・価格で巻き返され、世界的なシェアを落としていきます。一方アメリカでは、DEC、IBMIntel等のコンピュータ企業とエネルギー省(DoE)が組んで、スカラー型コンピュータを大量に組み合わせて並列化する、いわゆる超並列コンピュータの研究を進めていました。日本企業によるスーパーコンピュータ市場の占拠を掣肘するためにも、米国製超並列コンピュータはその性能を大々的にデモンストレーションする必要がありました。

とは言え。
ディープ・ブルーは膨大な棋譜データベースを可能な限り早く検索する能力と、可能な限り多くの手を推論し評価するアルゴリズムという、実に泥臭いやり方で、「洗練された」人間のひらめきや直感を越えることが可能であるか、という命題を投げかけられる位置まで上ってきたのは確かです。
あるいは、人間がひねり出す「ひらめき」「インスピレーション」などが、結局は

  • 蓄積された経験情報データベース
  • 入力される感覚情報を含めた推論/判断アルゴリズム

でしかないのか、あるいはそれを越えるものなのか。そういった命題に対するアプローチになってはいると思います。


以下、

  • 自由意志を認知するのは誰か
  • 知性と非知性の境界
  • デジタル生命体の可能性
  • 大脳の神経細胞400億、実働100億、インターネットのノード数50億

ってな話を書こうと思ったんですが、めんどくさくなったのでやめます。
仕事中に日記書くもんじゃないね、ってお話しでした。

*1:High Performance Computing