マスター・アンド・コマンダー

非常に骨太な作り。
ナポレオン戦争期を背景に、フランスの私掠船・新鋭フリゲートを追跡する英国軍艦の物語。息詰まる追跡劇を縦糸に、艦内の群像劇を横糸に、当時の軍艦を緻密に再現した映像で描いていく。
中部大西洋から南大西洋、そしてホーン岬を回ってガラパゴス諸島まで。速度でも戦闘力でも勝る敵艦に食い下がる"主人公"HMS Surpriseを主軸に描く前半の展開と、人間ドラマとガラパゴス諸島の幻想的な映像が魅せる後半、全編是見所と言っていいと思う。
この作品で描かれる1805年の約20年前のバウンティ号の反乱を扱ったバウンティ?愛と反乱の航海 [VHS]とほぼ同じような艦内風景だが、暗く陰鬱な奴隷船のように描かれた「バウンティ」と比べ、窮屈ではあるが濃密な人間関係の舞台として描かれている本作は驚くほど印象が違った。
また、博物学や医学が大きく発展した時代ということもあって、手術のシーンや自然観察の情景なども多く盛り込まれている。開明的な精神と野蛮な狂気の同居する近世を感じられる一作といえる。
比較的地味な作品だが、エンターテイメントとドラマと映像美、そして知的趣味をほどよくバランスさせている良作なので、未見の方は一回ご覧になることをおすすめしたい。