台風はてな

20分くらい前ですが。
仕事帰りにウェンディーズのドライブスルーで夕食を購入。
激しく降りしきる雨の中、窓を開けてお金を渡しおつりをもらう。
「ただいまお作りしていますので、車を先に進めてお待ち下さい。」
既に2台止まっているその後ろに車を止める。
サイドブレーキを引いて数十秒、窓の外を突っ走る女子店員。
必死の形相で雨の中を突き進み、手に持った紙袋をたたきつけるように客に渡す。あっけにとられたような表情で受け取る客。そして女子店員は見事なターンを決めると店内に駆け戻った。
そしてわずか1分後。彼女は再び店内より現れた。華麗なフォームで水たまりを蹴散らし、アスファルトの上を疾走する。必死の形相。その顔はまるで般若か鬼子母神
ビビる客にハンバーガーの詰まった神袋を握る拳をぐいと突きだし、有無を言わせず受け渡しを済ますと、スキール音が聞こえそうな切り返しを決めて帰っていった。
待つこと数分。ついに私の番が来た。
電動ウィンドウのスイッチに手をかけて待つ。
ついに彼女が現れた。
振り乱した髪が首筋に張り付き、さながら怨霊のごとき形相で暗がりに踏み出す彼女。勢いよく走り出した。
一歩、二歩。力強く舗装路を踏みしめる彼女を、私は息を詰めて見つめる。窓を開く手が震える。それは恐怖か、あるいは畏怖か。
私が凝視する中、その姿がぐらりと揺れた。
彼女の足がずるりと滑り、その体が泳ぐ。
何かにすがるように彼女はその手を挙げ……
水しぶきを上げて倒れた。
彼女はしばらく動かなかった。その場で雨に打たれて震えていた。
思わず車外に出て彼女に駆け寄った。雨が眼鏡を打ってすぐに視界が無くなる。
彼女のそばに寄って、助け起こす。もう雨でびしょぬれの制服は、黒い泥で少し汚れていたが、激しい雨ですぐに汚れもなくなる。
「だ、大丈夫?」
「……すみません。」
何となく言葉もなく立ちつくす私たち。
「……これ。」
差し出されたぐしょぬれの紙袋を受け取る。
「怪我してない?」
「……大丈夫です。」
そして、肘を抱え肩を落とした彼女は、店に向かってとぼとぼと戻っていった。


今日のハンバーガーは、ちょっと冷めていて、ちょっとだけ涙の味がした。


ほぼ実話。
なお、台風はてなについてくわしくはシナ千代さんをご覧下さい。