ジェイコム株の話

このブログでは、普段あんまり経済記事には触れることがありませんが、とあるネタ元からこの問題についておもしろい話を聞いたのでメモ。
まず、今回の経緯についてはどなた様もご存じだと思うが、一応簡単にまとめる。

  1. ジェイコム株は12/8に東証マザーズに上場(公開株数1万4500株)
  2. みずほ証券ジェイコム株の売り注文を誤発注
    • 1株61万円の注文を61万株1円で
  3. すべての注文が約定。みずほ証券は3630億の空売り状態に
    • この時点でどこの証券会社が誤発注したのかは不明だった
  4. 日興コーディアル証券などの証券会社が誤発注したのではないかと疑われ株価急落
    • 後に、誤発注はしていないと記者発表。他の証券会社も続く
  5. ジェイコム株売買停止
  6. 東証空売り状態となった未回収分については現金での強制決済とする「非常時条項」を検討

大体の流れはこんな感じ。
んで、世間的にはみずほ証券が誤発注したことに批難が集まっているようだけれど、とあるネタ元によると、システム屋的に見てこれはむしろ東証が一番まずいということらしい。
もちろんみずほ証券のケアレスミスに事の発端があるわけだが、その注文を受け付けたり、あるいはキャンセルする段階で東証マザーズのシステム的なお粗末さが事態の悪化を招いたのだという。
順を追って記述していく
まず、マザーズが「ジェイコム株61万株1円の売り注文」を受け付ける段階で2つのシステム的ミスがある。
第一に、ジェイコム株の公開株数は1万4500株で、61万株も市場に存在しない。市場に存在しない架空の株を取引することは、商品先物取引ならいざ知らず、現物商品取引である株取引では「空売り」としてあり得ない行為となる。(実際には、信用取引などで空売りもあるらしいと聞いたが、ここでは置く)
第二に、ジェイコム株の12/8のストップ安値は57万2000円である。株取引相場のルール上、これ以下の値段ではそもそも注文が出せるはずがない。少なくともそのはずである。
この2つのミスは、いずれもシステム的に制約を、それも入力数値のチェックという極々単純な仕掛けで防ぐことができる性質のものだ。部外者の私でも、市場に存在する株式総数以上の注文はリジェクトする、ストップ安値・ストップ高値圏外の値段の注文はリジェクトする、ぐらいの対策はすぐに思いつく。もちろん、そう単純なものではないかもしれないが、これだけ大きな入力ミスを許容するシステムなど、システム屋の常識ではあり得ない。
また、さらにシステム的にまずい部分がある。
みずほ証券の担当者は、この巨大なミスに気づき、すぐに取り消し注文を出したのだという。しかし、この取り消し注文を「61万株を1円で」と入力したところ、「ストップ安以下の注文は受け付けられない」とシステム的にリジェクトされたのだ。パニック状態に陥ったみずほ証券の担当者がひたすら同じ取り消し注文を入力する前で、61万株の売り注文はすべて約定となった。
この、「間違った値段の注文は受け付ける」「間違った値段の注文取り消しは受け付けない」というダブルスタンダードは設計ミスと言うほかない。取り消し注文はストップ安の制限が働いていて、通常の注文にそのセイフティが働いていない合理的な説明が、全く思いつかない。


結局、事態はみずほ証券にすべての責任をおっかぶせ、東証は現金での事態収拾を図るだけで口をぬぐうつもりのようである。しかし、事はみずほ証券の信用問題というより、東証、あるいは証券取引業界全体の信用問題である。今年、証券取引所システム停止を何度も繰り返してそのシステムのお粗末ぶりを衆目にさらしたが、今回はそのとどめと言ってもいい。
来年には日本版SOX法の成立も囁かれている中、一般企業以上に襟を正すべきは証券取引所ではなかろうか。
少なくとも、こんな恐ろしいシステムを使っている証券取引所に注文を出す個人投資家はよほど酔狂かよほど馬鹿か、あるいはその両方ではあるまいか。


以上、とある人から聞きかじった内容のメモ。私自身は素人もいいところなので、中身が間違っていても笑って許してね(とエクスキューズ)。