終末の振り子時計

人類が、エネルギー問題も人口問題も砂漠化も環境汚染も地球温暖化も疾病も害虫も一通り解決してしまった未来。未解決の問題といえば、延伸は出来る物の根本的な解決が難しい人類の老化問題と、メリットの問題から放置されている宇宙開発くらいの物である。
当然、人類の英知を結集した研究テーマは、老化問題の解決、つまりは"不老不死"であった。
様々なアプローチが試みられた。
テロメアをコントロールする技術、老化を促す体内ホルモンの調整、クローン技術やヒト遺伝子の調整。そのアプローチの中には、すべての生物の遺伝情報を保存した"ライブラリ"から強靱な生命力を示した生物の遺伝子をピックアップし、人間の遺伝子に組み込む試みも含まれていた。
そして、ヒトの寿命を著しく延伸し、老化を遠ざける決定的な遺伝子が組み込まれ、人類はついに寿命150年という種の限界を乗り越えることに成功した。ヒトは、数百年に及ぶ"永遠の夏"を手に入れたのだ。
しかし、その遺伝子を提供した生物については、あまり知られることはなかった。ただ、ライブラリの情報の海にだけ存在する、その網翅目の生物は、既に文献の中にだけ登場する絶滅種にすぎなかった。
人類の夏は、永遠に続くかに見えた。
世界人口は200億を超え、その98%までが都市で何不自由のない生活を送る。あるものはそれを"無憂時代"と言った。


そんな時代のある都市。
一つの事件が話題になった。高層化した都市群の一分が停電したのである。
停電の原因は、既に絶滅したはずの昆虫であった。その小さな虫は、電力網を支える中継器に入り込み回線をショートさせたのだった。
科学万能の現代における珍事として騒がれたそれは、電力網を管理する当局への突き上げとなり、事件再発を約束させられた彼らは、すべての電力網を点検することになった。すると、意外な事実が明らかになった。絶滅したはずの昆虫が他にも何十匹か発見されたのだ。当局は、管理能力を適正なレベルに引き戻したことをアピールするために、その昆虫を残らず狩りだし、再び彼らを"絶滅種"としてライブラリの中に戻したのである。しかし、その昆虫がどこからどのようにして現れたのか、そのプロセスはようとして知れなかった。
大きな疑問符だけが残ったのである。


その疑問は、数年後に解明された。
ある日を境に、一人暮らしの人間が忽然と失踪する事件が多発した。警察当局の必死の捜査にもかかわらず、彼らは一片の髪の毛さえ残さずに失踪してしまうのだ。まるで最初から誰もいなかったかのように。捜査官たちの努力にもかかわらず、証拠らしき物は何も出てこなかった。すべて記録しているはずの監視装置でさえ、何も写していないのだった。
手がかりは、失踪時に聞こえる『カサカサ』という物音のみ。
それが、崩壊の足音であることに気づいた物は皆無であった。


その瞬間は、唐突に訪れた。
ある者は仕事中に。ある者は食事中に。またある者は入浴中に。
すべてのインフラが突然活動を止めたのだ。電力は失われ、水は止まり、通信は途絶した。驚きと戸惑いにすべての者が動きを止めた瞬間。
世界は黒一色に染められた。
ある者は絶叫をあげた。自らの体から突然這い出すその昆虫に。
ある者は心臓を止めた。全身を覆い体を囓り始めたその昆虫に。
ある者は我が耳を塞いだ。一斉にささやき始めたその昆虫の群れに。
そして、全人類の98%がその声とともに生を奪われた。
「人類よ、絶滅せよ。」
世界を埋め尽くしたその黒い昆虫は、ついに復讐を果たしたのだった。

で、クロゴキブリに埋め尽くされたかに見えた世界に、まだ人類は生き残っていて、僅か数千万人の非都市住民が進化したゴキブリと反応弾の投げ合いをしているような世界を舞台にした、種族を超えたボーイミーツガールとかどうかと思ったのですよ。
もちろん、狩られる側の野蛮人類の少年と、進化しすぎて人間と同じ形態を取るようになったクロゴキブリのアホ毛萌え少女が、二つの種族の和解を目指して愛あり涙ありの冒険行をデスね………。


というプロットを、空想都市のチャット中にブレインストーミングしてみたのですがいかがなモンでしょうか。誰か書かないですかね。私は手一杯で無理です。
という話。
なお、タイトルに大した意味はないです。