花の命は短くて
空想都市でいつもお世話になっている、Cichla(木倉俊文)さんの作品を拝見しました。
あーもう。掌編書かせると上手いなこの人は、もうっ!
今年も散っていく花を眺めながら感じていたのですが、桜ほど日本人の心を打つ花もないように思います。
私の好きな短歌に、
願わくは花の下にて春死なん その如月の望月の頃
という有名な歌がありますが、桜の花に何を見るかで、その人の心のあり方が端的に表れるような気がします。
久方の光のどけき春の日に 静心無く花の散るらむ
のように、散りゆく花を惜しむ歌だったり、
もろともに哀れと思え山桜 花よりほかに知る人もなし
のように、孤独を仮託する歌だったり、
花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり
のように、老境の我が身を振り返る歌だったり。
桜に思いを馳せる人の心情をわかりやすく示しているのが、伊勢物語のこの三首。
世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし
散ればこそいとど桜はめでたけれ うき世になにか久しかるべき
桜花散らば散らなむ散らずとて ふるさと人の来ても見なくに
花が咲いて春を知る。花が散って世の無常を知る。そして、花を見上げて孤独を知る。出会いと別れの季節にふさわしい花なのだなぁと改めて思った次第。