「SEED」読みました

とりあえず読みました。
感想は特に書きません。実際に読んでいただくか、ほかのブログなどで感想を読んでもらうのが良いと思います。
ここでは「SEED」は「赤」を盗作したのか否かに話を絞ります。

ストーリーやテーマ

まず第一にストーリーやテーマの類似性について考察します。

ストーリー(導入部) テーマ
SEED 極端に出生率の低下した近未来。主人公は受胎させる能力のある男性「SEED」として選抜され、専用の施設で世界のために見ず知らずの女性とセックスする。そしてそれを知った彼女に別れを告げられる。 妊娠出産まで管理されるディストピア社会での切ない青春模様
極端に出生率の低下した近未来。主人公は受胎させる能力のある雄として徴集され、専用の施設に収容される。そこで主人公は、自分の担当者となった女性に一目惚れする。 妊娠出産まで管理されるディストピア社会での様々なセックスシチュエーション

テーマには大きな隔たりがありますが、主な構造はひどく似通っています。

類似点

繰り返しになる部分もありますが似通っている設定をピックアップします。

  • 世界的な出生率低下の原因は男性の受精能力の減退
  • 受精能力の高い男子少年の保護を政府(世界中)が行っている
    • は強制徴用
    • SEEDは登録制による義務化
  • 政府の専用施設でセックスする
    • は娼館型
    • SEEDは出会い系型
  • 学校での教育シーンがあり設定を端的に説明するのに使われる
    • はモノローグでちょっと触れるだけ
    • SEEDでは設定説明に2ページ程度
  • 個人に性愛や出産の自由がない抑圧された管理社会
    • は抽選にあたらないと孕めない
    • SEEDは産む専業の女性がいる

しかしまあ。よくよく見ると、実に奇抜というかばかげた設定ではあります。

相違点

類似点だけ

  • は人工授精無し(発展途上)。SEEDは人工授精有り。
  • はボーイミーツガール。SEEDは別れから始まる。
  • は徴用される。SEEDは出頭。
  • は施設で美女に迎えられる。SEEDはオッサンに殴られる。
  • は家族に泣いて見送られる。SEEDは彼女に泣いて逃げられる。

こうやって挙げると大枠での差異はほとんど無い。ところで、人工授精あったらわざわざ無理矢理セックスさせる必要あるの?

どちらが先?

盗作云々の話をするとき、「どちらが先だったか」は重要です。
SEEDの初出は言うまでもなく、ビッグコミックスピリッツ2009/03/30発売18号です。
の初出は2007/12/10。PINKちゃんねる(BBSPINK)エロパロ板の「孕ませ/子作り/種付/妊娠/妊婦/出産/HR総合【8】」(以下元スレ)のレス番345になります。12/24からは自サイト「三つ編み外様大名http://mitsuami.sakura.ne.jp/chon/)」にも掲載しています。2008年2月3日まで連載し、残り4話を残して中断しています。
なお、アニメ監督・前田真宏氏のブログ「前田真宏のINUBOE」によると、今井大輔氏は『巌窟王』のコミックで前田氏のアシスタントをされていたそうです。(参照:http://inuboe.exblog.jp/10672062/
今井氏が『巌窟王』3巻の後半でアシスタントに入った頃には既に「SEED」を書き始めていたそうですが、『巌窟王』の発売が2008/7/23であることを考えると、3〜6ヶ月前のことではないかと思います。
邪推かもしれませんが、赤の連載時期と丁度重なりますね。

結論

設定に関しては、類似性を見るにほぼ剽窃のレベルといっていいでしょう。ただし、元スレには類似の設定の作品がほかにもあったので(◆/pDb2FqpBw氏の「35人目」とか)、「赤」に限らず元スレ全般からいわゆる「インスパイア」されたのではないかと思います。
また、「書き始めた」時期的に見ても元スレで私が投稿していた時期と被るかそれ以降なので、「たまたま同時に思いついた」という言い逃れは苦しいのではないかと思います。設定がここまで似通っていなければ「シンクロニシティ」とか言えなくもないでしょうが。
ただ、設定・アイディアのパクリは著作権法上は何の問題もないので、こちらから何か出来ることはないでしょう。
結論としては「設定はパクられている」が話の筋立てや表現やテーマが微妙に違うので「盗作」ではない、ということになろうかと思います。

「SEED」に望むこと

そんなわけで、「SEED」がほかの作品の設定をパクった、というところまでは間違いないとして。(とりあえず私の中での結論。実際にどうだったかは先方に問い合わせるしかないけれど、物的証拠が何もない以上否認されたらそれまでです。そして、剽窃をしようという人が素直に認めるはずがない。労力の無駄なのでやりません。)
問題は、その剽窃した設定をうまく消化/昇華出来ているかという点です。
特に、「赤」にしろその他の元ネタとおぼしき作品にしろ、基本的にはジャンル特化エロ作品として作られています。ずばり言ってしまえば、「中出し」「孕ませ」を想起させる性交描写をふんだんに提供しつつ、読者に違和感や罪悪感を抱かせないためにこそ設定が存在しています。
その点、「SEED」ではこれらの設定を「理不尽な社会情勢に翻弄される少年の青春劇」という別のドラマを描くための舞台立てとして使っているのですが、これはあまり成功しているように思えません。個人的には、もっと適した設定があるに違いないと感じます。「ぼくらの」や「ほしのこえ」のように、SF的理不尽設定を使って思春期を際立たせて成功している作品は多いのですから、そういう作品を見習った方が良いのじゃないかと。
設定の奇抜さだけでドラマを建てようとせず、主題に合わせて世界をも練り込むべきだと思うのです。
ただまぁ。連載ものの第1話を見ただけなのでまだまだ結論を出すのは早計でしょう。連載が終わるまで、剽窃の結果が是か非かは判断を保留するしかありません。
願わくは、「この作品には設定をパクってでも伝えたいこと(描きたいこと)があった」と納得させてもらいたいものです。

蛇足

個人的には、こういう事例が「ネットの作品を商業誌でパクっても全く問題ない」という前例にならなければいいな、と思います。剽窃や盗作は法律から言えば著作権法上の問題ですが、それ以前にクリエーターとしての矜持の問題です。
また、これは明確に言っておきたいのですが、そのまま丸コピーや表現を丸パクリする「盗作」と、設定やアイディアを「剽窃」することは似て非なるものです。設定やアイディアは作品のごく一部を占めるパーツにすぎません。そして、クリエーターとしての仁義さえ通せばむしろ積極的に借りパクするべきだとすら思います。但し問題なのは、安易にパクって見てもちゃんと作品の中で昇華しない限り、「借りてみた」以上の結果には決してならないと言うことです。要するに、同じパクるんでも全く別物に見えるようにうまくパクれと。