中東戦争全史

中東戦争全史(学研M文庫、著者:山崎 雅弘、ISBN:405901074X)を読んだ。
中東戦争、というよりもパレスチナ問題のルーツを、古代ユダヤディアスポラから書き起こして19世紀末のシオニズム、イギリスの三枚舌外交などから詳述している一作。政治外交史、戦史としてはどちらも概説レベルではあるけれど、中東戦争通史としては詳細に歴史を学んでいく上での基盤たり得る一冊である。
パレスチナ問題のおもしろいところは(こういう言い方も不謹慎だが)、首尾一貫としてイスラエルユダヤ)対パレスチナ(アラブ)の争いでありながら、時に植民地時代の歪みが生んだ民族自決の戦いであったり、時に東西両大国のバランスゲームであったり、時に主義主張を超えたテロリズムの温床であったり、実に様々な背景を持って争われ続けてきたことだ。そして、約50年の流血の歴史を戦い抜いてきたイスラエルパレスチナの、互いに向ける敵意の容赦のなさには背筋の凍る思いがする。
現在、中東ではパレスチナ人の自爆テロイスラエル軍による報復が続いている。日本の報道ではどちらかというとイスラエルの暴虐さが前面に押し出されることが多い気がする。しかし、中東戦争の事跡を一通り辿るだけでも、これが既に「どちらが悪い」といって片づけられるような容易い問題でないことが理解できる。わずか10年前、歴史的な暫定自治合意でパレスチナ問題の解決に光明が見えたように思えたにもかかわらず、今もなおパレスチナは混迷の度を深めている。一筋縄では理解しがたい中東問題を読み解く縦糸として、この本は有効な一冊だと言える。
なお、この本は第2次世界大戦後もっとも長期にわたって戦われた(ある意味今でも戦われている)戦争の戦史として、近代兵器のコンバットプローブンの歴史として読むことも出来る。エジプト軍の防空システムやソ連東地中海艦隊、シャーマンM50などおもしろ目のネタもそこここに見られるので、目を通しておいて損はないと思う。