最低系SSについて

Web小説について語る掲示板、それも二次創作の特定ジャンルについてのヲチスレ高CQスレなどでは、頻繁に『最低SS』『最低系』『最低テンプレ』などの用語が使われますが、それについて考えたことなど。
最低系SS、あるいは最低SSとは、なかなか明確な定義が難しいのですが、個人的にはこう理解しています。

  1. 主人公は初期設定段階で最強の戦闘力や特殊能力を持つ。あるいは作中の初期段階で力を与えられる。
  2. 主人公の精神的傾向として自己陶酔や被害者的心情が強い場合が多い。または、逆境にも耐えられる強い精神力を持つとされることも。
  3. 主人公に対する作者の自己投影が強く、また、周囲の登場人物の反応やストーリー展開も、主人公を承認するバイアスが強い。主人公を否認する登場人物や組織は展開上不利になり、あるいは破滅する。
  4. 男性主人公に複数の女性が恋愛感情や思慕の念を抱く、あるいは同性のキャラクターから信頼関係を得やすいなど、ハーレム的傾向が強い。

こういった特徴がいわゆる「最低系」作品の傾向として強く打ち出されるのですが、それ自体はさほど問題ではないと思います。自己埋没型の主人公が世間一般の排斥と戦いつつ身近なコミュニティー内での結束を強める展開などは、昔からジュブナイル向けに頻用された手法ですし、主人公を特別な存在として描き、そこに読者の願望充足欲求を投影させる手法も、ヒロイックファンタジーの基本となるスタイルです。パルプフィクションの末裔たるラノベや、そのサブタイプとも言えるWeb小説でこれらの手法が使われることは、むしろ正常進化と言っていいでしょう。


さて、では何をして『最低』とするのか。
『最低系SS』の最大の問題点は、こういった読者の願望充足度が高い作品が一つ成功すると、同傾向同展開の模倣作品が雨後の竹の子のように発生することです。特に、原作の展開をなぞることになりやすい二次創作ではその傾向が非常に強く、細かな設定以外は大同小異でしかない模倣作品が溢れかえり、まるでテンプレートをなぞるように次々と再生産されるのです。(これがいわゆる『テンプレ化』)
しかも、これらの『最低系テンプレ作品』は、設定の整合性やプロットの練り込み、読者をコントロールする演出やそれを支える文章力・語彙が不足しているケースが多く、結果的に再生産は多くの場合単なる大量劣化コピーになってしまうのです。
氾濫する『最低系SS』は、結果として手法の陳腐化や読者の飽きを招く事になります。
また、本来創作活動とは相容れないはずの「多数決の理論」によって、「Web小説とは劣化コピーのことだ」*1という認識を招きやすくなることも懸念されます。作品レベルが低いままでもそこそこの満足感が得られるようになれば、書き手のそれ以上の技術向上を阻むことも考えられます。


とは言え、『最低系SS』を書くことが即ち悪いことだと直結するのはどうかと思います。
誰でも創作活動を始めるときは、拙い文章や少ない語彙で書き始めるものですし、そこから技術的に向上してよりよい書き手になることもあるでしょうから。
また、二次創作ではないオリジナル作品の場合、『最低系』的傾向の作品であってもなんの問題もないと思います。作者がそれらの『最低系』要素を取り入れるに当たって意識的、あるいは無意識的に小説の構成を考えたとき、ベストプラクティスとして選択した以上、全くの複製でない限りは、それなりの意味やオリジナリティが介在しているとみるべきです。
結局のところ、小説にとって設定やストーリーは単なる要素に過ぎず、文章として伝える表現力や場面構成などをくみ上げる構成力・演出力を組み合わせて初めて評価の対象となるべきでしょう。
小説にとって重要なのは、作品として面白いか否かだけであって、その要素に過ぎない部分で批評・批判することに何ら意味はないと思います。

*1:いささか極論ですが